+81という新しいビジネス・インキュベーターは、
事業家たちとともにどのような社会インパクトを目指すのか。
上場企業グループにありながら独立事業体であり、
起業家の社員化と「ミドルリスク・ミドルリターン」という共創関係を結び、
新規事業が再び新規事業を生む――。
その運営方針を代表取締役社長CEO・鈴木 貴人と取締役・武居 駿が語りました。
自身も事業を推進し、
伴走支援してきた起業・グロースの当事者でもある二人の対話を通して、
+81の価値観と存在意義を知ってください。
Topic 01
+81はなぜ生まれたのか
+81の設立の経緯を教えてください。
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鈴木
+81は、上場企業であるSOLIZE Holdings株式会社の関連会社(以下、SOLIZE)として2025年7月1日に創業された新しいビジネスインキュベーターです。社内に「事業家」を抱え、新規事業の創出からビジネスの構造化・収益化までを自社で行い、子会社として独立させていくことを目指しています。
私たちの特長は、SOLIZEの強固な経営基盤を背景に持ちつつも、意思決定・事業設計は完全にフラットで独立した構造をとっていることです。つまり、母体の社名を冠さず「自由」である。
なぜ、このような事業体が生まれたのか。+81の前身と言える組織は、SOLIZE内で2022年に私が中心になって立ち上げた「ビジネスインキュベーション事業部」です。社内からビジネスを生み出して新たな事業ドメインの創出を目指し、さらにグループ本体の主業である製造・技術領域と関連する企業に投資し育成するCVCの機能も持つ部署でした。 -
武居
鈴木と私は、ビジネスインキュベーション事業部時代に5事業を創出しました。SOLIZE本体とシナジーがある事業も、全く関連のない事業もありましたね。実績としては、一事業は市場検証の結果、撤退。一事業はSOLIZE本体へ譲渡。残る3つは法人化・収益化を実現することができました。
そのほかにも、女性向けwebメディア、賃貸保証事業、リアル店舗DXなどの多様なドメインで事業を推進しています。これらの活動を通して、SOLIZEにインキュベーション基盤が育っていきました。 -
鈴木
こうしたグループの将来を考える社内組織が、+81として独立したわけです。グループ本体が築いてきたアセットにとらわれず、第二・第三の収益の柱を担っていくためには、自由に意志決定できるほうが目的に合っていますから。今後は事業家を社内に抱え、あらゆる共創を本格化させていきます。
Topic 02
なぜ「インキュベーション」なのか
インキュベーターとしての方針を教えてください。
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鈴木
まず、なぜVCやCVC、アクセラレーションではなくインキュベーションに振り切ろうとしているのか。アクセラレーションは外部支援者としての立場ですが、私たちは事業家と共に汗をかく「当事者」でありたい、すなわち「事業共創家」と考えています。このスタンスには、私と武居がSOLIZEにジョインすることになる、さらに前の原体験が大きく影響しているんですよ。
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武居
そうですね。もともと私と鈴木は同じ投資銀行の同僚なんです。先輩だった鈴木とは、当時から数えきれないほどの事業家に会い、ビジネスをグロースさせるために試行錯誤してきました。私たち自身も、何度オフィスで徹夜と休日出勤をしたかわからない。
その後それぞれの道に進みましたが、SOLIZEのビジネスインキュベーション事業部で再び一緒に仕事をするまで、何かしらのかたちで「0→1」の現場に価値を感じ、そこに伴走してきました。 -
鈴木
その過程で確信させられたのが「新規事業」だけが持つ「既存の構造を問い直す」力です。+81のインキュベーションの方針は数ある社会課題の中でも「産業課題」にコミットすること。私たちが暮らす社会を回すために産業があり、社会課題のほとんどは産業の課題であると言えます。
成熟し、硬直してしまった産業にインパクトを与え、先に進ませてきたのは常に未知の事業であり、新しいアントレプレナーの存在です。私たちは彼らとともに、常識にとらわれず、この日本から「産業」そのものを育成していきたい。そのためには、投資基盤が整ったインキュベーターとして活動することがもっとも向いていると。 -
武居
現在の資金はSOLIZEが100%です。ただし、+81が創出する事業や子会社の増加とグロースに伴って、かなり柔軟な変容が起きてくるでしょう。例えば子会社の持分譲渡や、当社独自の資金調達。ファンドを建て、外部の企業から出資を受けるケースもあるはずです。
ステークホルダーの拡大は、資金だけでなく事業そのものの成長にとっても重要です。オープンイノベーションの考え方にのっとり、VC、出資先、戦略パートナーとの接続を支援しながら、+81の事業家の非連続な成長を支えていきます。
私たちはあくまで独力でビジネスを構想・設計し、創出する存在ですが、それは事業家が「個」や「社内」に閉じこもるということではありません。
むしろ、SOLIZEの外にあるべき関係性を常に開拓し、耕していく。ファンドも成長資金のみを求めるのではなく、有望起業家との接点形成として機能します。資金・構造・そして人材の三位一体で、産業課題への挑戦を活性化させる土壌を生んでいきます。それが+81エコシスシステムなのです。
Topic 03
「ミドルリスク・ミドルリターン」で事業家が得る自由
+81の事業家が抱えるミッションとインセンティブについて教えてください。
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鈴木
それを説明するためには、事業家を「社員」として抱える当社の組織構造についてお話ししなくてはなりませんね。母体から完全に独立した意志決定能力と並んで、+81の大きな特長です。
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武居
事業創出の世界では、起業家が自己資金あるいは投資家から資金を調達してグロースを目指す形態がメジャーであり、かつ成功後のリターンも最大になります。対して私たちは社員として固定の給与と賞与、福利厚生などを与えながら、ともにグロースを目指していきます。
社内の事業家たちが生み出したアイデアは顧客・課題・提供価値の三点が揃い再現性ある構造になったタイミングで事業化し、継続的な収益性とチームが自走するまで成長した時に子会社化されます。事業家はその子会社の経営者となる。
その際に発生するインセンティブが、いわゆるキャピタルゲインにあたるものです。インセンティブは新規事業の開始時に各事業家と個別で結んでおきます。例えば「○年後にEBITDA○○億円を達成した場合、○億円」といったイメージです。 -
鈴木
起業家であり、社員でもある。この仕組みを私たちは「ミドルリスク・ミドルリターン」と呼んでいます。
なぜ私たちがこうした構造を選び取ったかというと、やはり「産業課題の解決」というインキュベーションの本懐にのっとっているからです。そもそも新規事業とは産業構造にインパクトを与えるためにある。「社会をよりよくするためには、どうすればよいのか?」を問うために必要であるわけです。
そうした「問い」から出発し、事業のスタートを切る起業家はとても多い。しかしながら、私たちはいままで起業家が「事業そのもの」にフォーカスしにくい状況を多く見てきました。壁の多くは資金調達にかかるコストです。私の感覚では、持ち時間の3分の2がお金集めの労力で消えていく。VCから調達すれば、収益と市場価値の向上を最優先に求められる。常に「答え」を出せと。もちろん、そうした環境に身を置くことも起業家が自ら負うべき責任であり、その中から素晴らしいビジネスが育つことも多いでしょう。――しかし、ほかに選択肢はないのだろうか? -
武居
そうですね。私たちは「ミドルリスク・ミドルリターン」によって「問い」にフルコミットできる環境を用意したかった。事業オーナーが顧客創出と事業構築に集中できるよう、支援担当や外部人材が周囲を固め、円滑な連携と密なコミュニケーションを設計しています。そうした現場こそ、産業課題の解決にとって極めて重要なのですから。
Topic 04
「BtoE」による課題解決の循環とは
+81の事業家が新規事業を収益化した後の成長プランを教えてください。
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鈴木
先ほども話したように、私たちはVCやエクイティ・ファンドではありません。純粋なインキュベーターとして、得た収益は次の新規事業に投資し、繰り返しビジネスを生みだしていきます。
資金の循環ではなく、ビジネスによる課題解決の循環を起こしていくこと。このモデルを「Business to Ecosystem = BtoE」と呼んでいます。 -
武居
現在すでに3事業を持っていますが、目標は、2033年に20から30の事業を立上げ、300~500億円の利益目標へ到達することです。事業群の創出のためには、第一に既存の産業構造に疑問を見出し、構想を描ける事業家が+81に集まること、第二に挑戦を支える仕組みの増強が不可欠です。資金提供だけでなく、人材採用、戦略パートナーとの連携などの実務面でも伴走していきます。
事業がそれぞれの「産業課題に対する問いと答え」を追求するなかで、技術や市場、課題が横串を通すようにコラボレーションが生まれるはずです。その繰り返しが「BtoE」となっていく。 -
鈴木
そのためには1人で立ち上げから推進まで担える「事業の自立力」を育てることが前提になりますね。社員化しているとは言っても、+81は社内の新規事業部ではない。生みの苦しみも、決断の連続もある。私も武居もずっとそうした現場に身を置き、ファイナンスと向き合いながら「0→1」に挑む厳しさをよく知っています。もちろん、成功したときの価値の大きさも。だからこそ「BtoE」で持続的に事業家のチャレンジを生み続けていきたいのです。
そこに多くの企業が参加し、社会全体にインキュベーションが巻き起こされていく未来を見ています。欧米式の投資ではない、日本ならではのモデルの確立を目指しています。
Topic 05
+81の事業家の資質と成長
事業家にはどのような能力を求めますか。
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鈴木
+81では、全方位的に優れた「万能型」の人材を求めているわけではありません。特定の業界経験や起業歴は問いません。MBAなどのスキルセットも不要です。
資金調達やチームマネジメントの経験もあれば望ましいですが、+81ではそれらを支える仕組みや専門チームがいますから、未経験でも恐れず飛び込める環境です。
それよりも、独自の視点やこだわりを持った「尖った感性」を歓迎したいですね。必須と言えるのは「問いを立てる力」と「検証し続ける粘り強さ」。 -
武居
+81で成果を出す人の共通項でもありますね。いままで起業を経験してきて環境に課題を感じていた人や、社内の新規事業部のなかでサービスを立ち上げてきた人がより自由に大きなステージで戦いたい場合は、私たちの「ミドルリスク・ミドルリターン」はとても合う組織です。
一方で、社員とはいっても定例化した仕事では全くありません。起業を考えたこともなかった人にはかなり難しいチャレンジになると思います。いくら事業構想が優れていたとしても有象無象の壁がありますから。 -
鈴木
そう。どんな事業でも、最初の構想がもっとも美しい。しかし私たちが伴走してきた限り、予定通りに進んだことなど一度もありませんでしたね。
新規事業の最大の強みは、スモールチームで何度も壁にぶつかりながら仮説とピボットを踏めること。完璧な正解は現場にしかなく、むしろ試し・壊し・作り直して成功確率を1%ずつ引き上げていった先にしか成功はない。「0→1」を成し遂げる時には、独特の手触りがありますね。 -
武居
+81の立ち上げ時期に行っていたVR事業がまさにそうでしたね。新しい技術であるだけに、なかなかマーケットに受け入れられない。
顧客を見つけてシードからシリーズAに上がる過程が、もっとも難しい。そこで、徹底的に創業時のビジョンに立ち返ってもらいました。「事業計画があるから」「周囲に宣言してしまったから」「ここまで頑張ってきたんだから」――。いままでのしがらみを全部外して、当初は教育向けであったビジネスモデルを、製造業に向けてみました。
そのときはじめて顧客が動いたのです。「受注できました!」と会社に戻ってきたときの事業家の顔は忘れられません。
起業とは、真っ暗闇の中を全力でダッシュしていくようなもの。100日のうち99日はつらい、とよく言われます。しかし、全身傷だらけになって走っているとき、ふと次に繋がる「光」が見える瞬間がある。その「光」を、事業家と一緒に見つけたいと思います。




